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後継者不足の中小企業がとれる選択肢──社員に承継するメリット・デメリットと注意点

(写真=PIXTA)

親族内承継ができない経営者にとって、次に考えやすい手段である「従業員承継」。会社のことをよく知る社員に事業を承継できれば、現経営者としては安心につながります。今回はこの従業員承継の実情やメリット・デメリット、注意点などを解説します。

従業員承継は全体の5分の1以下──後継者対策の実情

近年では公的な支援策などが充実した影響で、事業承継の選択肢が増えてきました。しかし、世の中には「同族承継(親族内承継)」を希望する経営者が多く、本当の意味で事業承継が多様化したとは言えない状況が続いています。

東京商工リサーチが2019年に実施した調査によると、「後継者有り」と回答した企業(84,579社)のうち、同族承継を予定している企業は全体の67.6%。その一方で従業員承継は17.7%、外部招聘は14.3%に留まっています。

会社を手放す形に近い外部招聘に比べると、従業員承継のハードルは低いように感じるかもしれません。しかし、従業員承継には後述するデメリットが潜んでいるため、同族承継に比べると敬遠されている状況がうかがえます。

とはいうものの、とくに小規模企業にとって従業員承継は現実的な選択肢のひとつ。後継者不足に悩んでいる経営者は、これを機に従業員承継に関する知識を身につけていきましょう。

安心感がある一方で社内分裂のリスクも… 従業員承継のメリット・デメリット

従業員承継には魅力的なメリットがある一方で、以下のようにデメリットも潜んでいます。

メリット デメリット
・後継者の選択肢が広がる
・会社をよく知る人物に引き継いでもらえる
・経営理念や企業文化を維持しやすい
・従業員や取引先など、周囲からの理解を得やすい
・適任の後継者が見つかるとは限らない
・株式の買取資金が必要になる
・社内分裂の危機に発展するリスクも

会社をよく知る人物が後継者になれば、これまでの雰囲気や企業文化などを維持しやすくなります。つまり、社内環境が大きく変わらないので、経営者や従業員にとっては「安心できる形」で事業承継を進められます。

ただし、必ずしも適任の後継者が見つかるとは限りませんし、以前から評判の悪い従業員を後継者にすると、周囲から不満が生じる恐れもあります。従業員と経営者とでは求められる資質・スキルが異なるため、後継者になる社員は慎重に選ばなくてはなりません。

また、一般的な従業員承継では、後継者に株式を買い取ってもらうことが前提となります。たとえば、内部留保が多く株価が高すぎる場合には、金銭面の問題で承継を進められない可能性があるので、後継者や会社の状況を細かく確認しておく必要があるでしょう。

従業員承継のデメリットへの対策とは?外せない2つのポイント

前述で紹介したデメリットについては、事前に対策を立てることである程度は回避できます。たとえば、共同創業者や役員を後継者にしたり、綿密な計画を立てたりしておけば、思わぬトラブルを未然に防げるでしょう。

また、従業員承継では以下の2点についても、強く意識しておく必要があります。

1.候補者を育成してから後継者にする

優秀な社員を後継者にする場合であっても、事業承継では基本的に「育成」が必要です。経営で求められる資質やスキルは短期間では身につかないため、以下のような育成計画に取り組まなくてはなりません。

・さまざまな部署で実務を経験させる
・子会社などの関連会社で、経営者としての経験を積ませる
・商工会議所のセミナーや中小企業大学校などで、経営スキルを専門的に学ぶ

適した育成計画はケースごとに変わるので、現時点での候補者の能力を慎重に判断・分析し、不足している部分を補える計画を立てることが大切です。

2.資金面でのサポートを意識する

後継者に譲渡した株式の売却代金は、現経営者にとっては退職金ともいえる大切な資金です。しかし、中小企業であっても税務上の株式の評価額が1億円を超えるケースは珍しくないので、後継者が資金を用意できないことがあります。

そのため、早めに通達して資金を貯めさせる、後継者を役員にして役員報酬を上げるなど、従業員承継では資金面でのサポートが必要です。場合によっては現経営者の資産を犠牲する必要性も生じるため、M&Aに比べて株式譲渡代金が低くなる点や、資金面での積極的なサポートが必要になる点は、あらかじめ覚悟しておくべきポイントでしょう。

2つのハードルを意識し、早めの計画と行動を

身内に後継者がいない中小企業にとって、従業員承継は貴重な選択肢のひとつです。ただし、従業員承継には「適任者の育成・株式買取の資金」の2つのハードルがあるため、優秀な社員を後継者に選ぶ場合であっても、慎重に計画を立てなくてはなりません。

数年単位での準備が必要になるケースもあるので、従業員承継を検討中の経営者は早めの計画と行動を意識しましょう。

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