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「企業買収への資金調達」と「銀行のクセ」 4~M&A優先株ファイナンスの事例と「銀行のクセ」のプラス活用~

(写真=PIXTA)

『「企業買収への資金調達」と「銀行のクセ」』シリーズの第4回です。第3回に続いて、無議決権の優先株を活用して、企業買収ファイナンスを行った具体的事例を説明します。買収と買収ファイナンスにおける、「定量」と「定性」の判断を検討し、「銀行のクセ」をプラス活用した本件の特徴をお話しします。

外食産業の親族外事業承継/M&A

第3回で説明した「外食産業(ターゲット企業X)」を買収したM&A案件の内容の概要は以下の通りです。

項目 M&Aの内容と特徴
ターゲット企業X
業種
外食産業(都心型レストランと食品製造小売)
ターゲット
財務状況
年商   前期121百万円   今期120百万円
営業赤字 前期▲19百万円  今期▲21百万円
純資産  前期 59百万円   今期 47百万円
総資産  前期 106百万円  今期 94百万円
株主 代表取締役社長と配偶者の株式100%所有
株主/オーナーの
売却希望条件
100%株式譲渡。M&Aによって、伝統ある事業を継続し、発展させる意志のある企業を探していた。
M&Aの買手から
銀行への相談内容
〇異業種への参入として事業リスクを踏まえた資金調達方法の相談。
〇運転資金及び新商品開発資金の調達を希望。

M&Aの買収判断の背景 ~「数字」と「ブランド」~

このM&A案件の特徴は、「異業種からの買収」であることと、本社部門と事業(外食)部門を分離し、「事業部門だけを買収」したことにあります。買手企業Aの社長は、外食事業=「都心型レストランと食品製造販売」部門単独で、継続的に営業キャッシュフローを生み出す可能性が高いと判断しました。

この「事業収支見通し=未来の青写真」が前向きであるという判断は、確かに、買収直前の部門単独の損益計算書(P/L)が営業黒字、かつ、貸借対照表(B/S)の純資産がプラスであったという「数字」にも基づいています。

しかしながら、「数字」上の判断だけでなく、「定性的」な判断も影響しています。本件の「定性的」判断は、老舗レストランと特定商品が「ブランド」として地元で認知されているという感覚です。そして老舗「ブランド」としての集客力を継続・発展させられる、という経営者の見通しでした。

それでは、まず、「数字」の問題から見ていきます。

買収前 外食産業(ターゲット企業X) のP/L(損益計算書)状況

表-1をご覧下さい。本社部門と外食部門を分離したP/Lの数値です。人件費と販売管理費を実態で分離して集計しています。営業利益ベースで、前期が11百万円、今期が8百万円のプラスです。

表-1 買収前のP/L

買収後 外食産業(ターゲット企業X) のP/L計画

表-2は、優先株出資判断の前に作成した、買収直前期から5年間のP/Lの事業収支(外食部門分社化後)の抜粋です。

表-2 外食部門分社化買収後のP/L計画

買収後1期目から着実に売上を伸ばし、5期目には営業利益10百万円の黒字を見込む収支見通しですが、比較的保守的な見積もりになっています。
(執筆現在の2018年8月時点で評価しても、この計画を上回るペースのP/L上の収益で推移しています。)

M&Aの買収判断の背景 ~「地元のブランド」と「地方銀行」~

それでは、「定性」的な判断、「ブランド」評価について考えます。各地方には、和菓子であったり、漬物であったり、麺類であったりと地元に親しまれた「食の老舗ブランド」があると思います。本件も、市のレベルで、40代以上のシニア層なら、誰でも知っているような「レストラン」と「個別食材」でした。

このような「ブランド」、「暖簾」という無形資産は、同じ地元の出身者が感覚的に共有しているもので、要は、「地元の人にしかわからない」ものです。本件も、地元出身の第三銀行行員が、その「ブランド」の記憶と評価を企業A社長と共有していたことが、融資と優先株を組み合わせるファイナンスに結実しました。

銀行の「定性」と「定量」判断 ~「過去と現在」クセのプラス活用~

「銀行のクセ」は、「未来」ではなく、「過去と現在」に固執することを「企業オーナーonline」の拙稿にて繰り返し説明してきました。通常、銀行員は、「過去と現在」の数字に軸を置いて「定量」判断する傾向が強く、「未来」(事業計画)の数字に対しては従属的な位置づけとなりやすいものです。

ところが、このケースでは「過去と現在」の「定量」でなく、「定性」的判断(地元の老舗ブランドの評価)を銀行員と共有したことが、融資と出資判断の決め手の一つとなりました。『銀行のクセ=「過去と現在」クセ』をプラス活用したのです。

M&A買収ファイナンスへの対応 ~優先株出資と融資の組合せ~

本件の優先株と融資の組合せは以下の通りです。
① 買収側企業Aの資金調達 株式購入資金:第三銀行の融資
② ターゲット企業Xの資金調達 商品開発等資金: 優先株(さんぎん成長事業応援ファンド)
③ ターゲット企業Xの資金調達 運転資金等:親会社(企業A)の貸付
④ ターゲット企業Xの既存借入 リファイナンス:第三銀行の融資

ターゲット企業Xの自己資本充実と商品開発のために20百万円の優先株、買収側企業Aの買収・株式購入資金を25百万円の第三銀行融資で対応しています。

図-1 株式購入資金向け銀行融資

図-2 買収ターゲットへの融資及び優先株出資

優先株出資ファイナンスの内容

次に、20百万円の優先株の具体的条件と内容は以下の通りとなります。

【優先株 出資条件概要】

株式種類:無議決権配当優先株式
出資金額:20百万円
引受株数:50,000株
引受単価:1株 400円 時価純資産÷株数
出資期間:約9年
資金使途:新商品開発と買収後経営安定化・自己資本充実
配  当:業績連動 [下の配当条件を参照]
         当期利益及び自己資本比率のマトリックス連動
期  中:時価純資産による償還/買取可能
満  期:原則、時価純資産による償還/買取

 

【配当条件】

税引後当期純利益 前期末自己資本比率
70%未満 70%以上
1株配当額 1株配当額
3.0百万円以下 配当なし 0% 20円/1株 5%
3.0百万円超~5.0百万円 20円/株 5% 24円/1株 6%
5.0百万円超~10.0百万円 24円/株 6% 28円/1株 7%
10.0百万円超 28円/株 7% 32円/1株 8%

「無議決権優先株式」として、「業績連動配当」と「満期約9年後の時価純資産(株式時価)に基づく償還・買取」、そして、「期中に、時価純資産(株式時価)に基づく買取・期日前償還可能」が特徴となります。

「銀行のクセ」のプラス活用に向けて

筆者は、地方銀行と都市銀行の双方での勤務経験がありますが、「銀行のクセ」を「定性」面でプラス活用することは、どのタイプの銀行にも可能性があります。

本件は、「地元」の老舗ブランドへの感覚と評価を、社長と地方銀行員が共有することで「定性」判断をプラス活用しました。都市銀行のケースであれば、「個別企業や企業系列グループのメイン銀行となった経緯」が行内で広く共有されていることが多くあります。また、「先代の頃に、苦しい状況を救ったからメイン銀行である。」というようなエピソードが銀行内で連綿と引き継がれていることも多々あります。

地元であれ、企業グループとの取引であれ、「歴史と経緯」を踏まえた「定性」判断を銀行員から引き出すことが、プラスに働く可能性があることを強調したいと思います。

第三銀行も、そのような地元と取引経緯を大切にする銀行として、優先株を含めた新しいタイプのファイナンス手法に挑戦していきたいと思います。

>>優先株・M&A・事業承継に関する照会はこちら

(作成:企業オーナーonline編集分室/第三銀行 HS)

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